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福岡簡易裁判所 昭和40年(ろ)298号 判決 1966年3月14日

被告人 高場直

主文

被告人は無罪。

理由

本件公訴事実は

被告人は昭和三九年一〇月二六日午後七時四五分ごろ、福岡県公安委員会が道路標識によつて一方通行と指定した北九州市八幡区黒崎町一丁目(二丁目とあるのは一丁目の誤り)附近道路において、前方の道路標識の表示に注意し一方通行の場所ではないことを確認して運転すべき義務を怠り同所が一方通行の場所であることに気づかないで、その出口方向から入口方向に向い普通貨物自動車を運転通行したものである。

というのである。

そして前記黒崎町一丁目(通称一番街)の道路(以下単に前面の道路と略称する)が南は北九州市八幡区大字熊手三一七番地の五先(熊手町二丁目)から北は同市同区黒崎町一番地の一先(黒崎町一丁目)までの間終日福岡県公安委員会告示第一六号により自動車および原動機付自転車の北行を禁止されていること、被告人が公訴事実記載の日時に普通貨物自動車を運転して右前面道路の一方通行区間の同市同区黒崎町一丁目明治会館前道路から前進して同所青柳薬局右横の流入口道路から前面の道路に進入右折して黒崎駅方向に北行(一方通行に逆行)して間もなく警察官の取締を受けたことは福岡県公安委員会の告示の抜粋および当裁判所の証人杠永行の供述、証人在田英一、同冷川孝行の各尋問調書ならびに被告人の供述によつて明らかである。(別紙見取図参照)

ところで被告人は本件当時現場附近には一方通行を禁止する道路標識はなく、ただ前記流入口道路の左側薬局横の電柱に指定方向外進行禁止の道路標識(311A直進および左折可)が取りつけてあつたが、初めて通行する場所であるので道路の状況がわからず、右標識の表示の趣旨に従い前方に直進の道路があるものと思い前進右折したところ直進の道路はなく前面道路の一方通行に逆行する態勢になつたので、さらに前記標識を確認するため後退しているとき警察官から停止を命ぜられたものにして、当時本件現場流入口道路左側には車両に対し右折進行を禁止し前面道路の一方通行に順応できる道路標識が存在しなかつた旨主張するので判断する。

当裁判所の検証調書、証人在田英一、同冷川孝行の各尋問調書、証人杠永行の供述ならびに被告人提出の写真および被告人の供述等を綜合すれば、現在本件現場流入口道路の左側には指定方向外進行禁止道路標識(311B左折可、以下単にB標識と略称する)が設置されているが本件当時には前同所附近には指定方向外進行禁止道路標識(311A直進および左折可、以下単にA標識と略称する)が設置されていたところ、右A標識の設置は前面道路の一方通行である点ならびに前記流入口道路が前面道路と共にT字型の地形をなしている点から判断して明らかに設置上のミスと思はれ現在のB標識の設置が適正妥当であることが認められる。(別紙見取図参照)

しかして道路交通法第九条第二項同法施行令第七条第一項によると道路交通法第七条第一項の規定に基き公安委員会が通行の禁止制限を行う場合は道路標識等を設置して行わなければならない旨規定されているから公安委員会の行う道路の通行の禁止制限はその処分の内容を表示する有効適切なる道路標識を設置して行わなければ法的効力を生じないものと解せられるのみならず、いやしくも誤解を招くような標識の設置は前記法令の趣旨に照らし許さるべきでないのみならず有効なる標識の設置のない場合と同様何等適法なる通行の禁止制限の効力を発生しないものといわなければならない。

ところで道路標識区画線および道路標示に関する命令によると「一方通行」とは当該道路において一定の方向にする通行を禁止する場合の通行方式をいうのであるから「一方通行として区間の入口および区間内の必要個所に「一方通行」の規制標識を立てるほか、その出口または本件のごとき中間区間の流入口等の必要個所に「車両進入禁止」または「指定方向外進行禁止」等禁止方向に進行する車両の通行を禁止すべき内容の規制標識を立てることが絶体必要とされるのである。しからば前記認定のごとく本件現場の状況において、一方通行区間の流入口より進行すべき車両に対してはその左側に前面道路の一方通行を実効あらしめるために有効適確な規制標識であるB標識の設置が本件犯罪の構成要件事実をなすものであり、その要件を欠く本件においては故意過失を論ずるまでもなく前記三叉路の流入口より前面道路に前進右折し北行した被告人に対し福岡県公安委員会の一方通行の告示は有効に効力を生ぜず、従つて一方通行の禁止の効力が発生しなかつたものといわなければならない。

以上の理由によつて被告人の本件所為はなんら罪とならないから刑事訴訟法第三三六条に則り被告人に対し無罪の言渡をする。

(裁判官 松尾伝次)

現場見取図<省略>

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